品種について

 ベルガモットの主な栽培品種 ― ファンタスティコ、フェミネッロ、カスタニャーロ

ベルガモット(Citrus × bergamia)にはいくつかの系統が知られていますが、現在、主要産地であるイタリア南部・カラブリア州、とりわけレッジョ・カラブリア周辺で栽培されている代表的な品種は、ファンタスティコ(Fantastico)、フェミネッロ(Femminello)、カスタニャーロ(Castagnaro)の3品種です。

2025年に示された「Bergamotto di Reggio Calabria(レッジョ・カラブリアのベルガモット)」IGPの生産規則でも、対象となる品種としてこの3品種が明記されています。

 

同じベルガモットであっても、品種によって、樹の大きさや樹勢、収量、果実の大きさ、成熟時期、果皮の特徴、精油の量や香気成分などに違いがあります。

大きく整理すると、

ファンタスティコは「生産性と精油品質のバランスに優れた現在の主力品種」

フェミネッロは「早生で小果、繊細ながら香りに特徴を持つ伝統的品種」

カスタニャーロは「強健で大果、果皮量も多いが隔年結果しやすい品種」

と捉えることができます。

 

ただし、「どの品種の香りが最も優れているか」を単純に順位付けすることはできません。近年の分析では、品種によってリナロールや酢酸リナリルをはじめとした香気成分の構成そのものが異なることが示されており、さらに収穫時期によってもその組成は変化します。

1 ファンタスティコ(Fantastico)

現在のベルガモット栽培を代表する主力品種

ファンタスティコは、現在のカラブリアにおけるベルガモット栽培の中心的な品種です。

現地の栽培情報では、ベルガモット生産の約75%をファンタスティコが占めるとされており、3品種の中でも圧倒的に普及しています。ファンタスティコが広く栽培されるようになった理由は、単に精油の香りが良いからではありません。

樹の生育、生産量、収穫の安定性、果実の大きさ、精油量、精油の香気品質などを総合的に見たときのバランスが非常に良いことが大きな特徴です。

いわば、現代のベルガモット産業における「標準品種」に近い存在です。

 

樹の特徴

ファンタスティコは比較的樹勢があり、生育も良好です。

フェミネッロほど繊細ではなく、カスタニャーロほど極端に樹勢が強いわけでもなく、樹の生育と果実生産のバランスに優れています。

着果量も比較的多く、安定して果実を生産できることから、商業的なベルガモット園に適した品種として普及しました。

現地情報では「良好な樹の発達と豊富な結実」が、ファンタスティコが選ばれる大きな理由として挙げられています。

 

果実の特徴

果実の大きさは3品種の中では中間的です。

2019年にカスタニャーロ、ファンタスティコ、フェミネッロの3品種を10月から翌年3月まで比較した研究でも、ファンタスティコの果実重量はフェミネッロより大きく、カスタニャーロより小さい傾向を示しています。

そのため、品種の特徴を果実サイズだけで表現するなら、

フェミネッロ < ファンタスティコ < カスタニャーロ

という関係になります。

ただし、果実重量や果皮重量は成熟とともに変化するため、実際の大きさは収穫時期によっても大きく変わります。

 

収穫時期

カラブリアでは、ファンタスティコの主要な収穫時期は11~12月頃とされています。

フェミネッロよりやや遅く、カスタニャーロと重なる時期に収穫される、中生~やや早めのタイプと考えることができます。

もっとも、ベルガモットは収穫時期によって果皮色だけでなく、果汁の糖度・酸度、果実重量、さらに香気成分組成まで変化するため、「何月が最良か」は用途によって異なります。

 

精油と香りの特徴

ファンタスティコの大きな魅力は、精油の収量と香りの品質を高いレベルで両立していることです。

ベルガモット精油では、

リモネン
酢酸リナリル(Linalyl acetate)
リナロール(Linalool)

などが主要な香気成分として知られています。

2019年にファンタスティコとフェミネッロを11月、12月、1月に採取してSPME-GC/MSで比較した研究では、両品種から42種類の揮発性成分が確認されました。

その中で、ベルガモット精油の重要なエステル成分である酢酸リナリルと酢酸ネリルは、フェミネッロよりファンタスティコで高い濃度を示しました。

さらに、研究全体ではファンタスティコの方が揮発性有機化合物の総量が多い傾向も示されています。

したがってファンタスティコは、単に「たくさん実がなる品種」というだけではなく、

産業的な生産性と、ベルガモットらしい華やかな精油品質を兼ね備えた品種

と位置づけることができます。

2 フェミネッロ(Femminello)

古くから栽培されてきた、香りに特徴のある早生品種

フェミネッロは、ベルガモットの伝統的な品種の一つです。

現在はファンタスティコほど広く栽培されていませんが、古くから精油品質の面で高く評価されてきました。

ファンタスティコやカスタニャーロと比較すると、樹はやや小型で繊細です。

一方で生育開始が比較的早く、果実も早い時期から収穫できるという特徴があります。

 

樹の特徴

フェミネッロは、3品種の中では比較的コンパクトな樹姿になります。

現地の栽培情報では、他の2品種よりも早く成長する一方、樹の発達そのものは小さく、収穫作業を行いやすいことが特徴として挙げられています。

その反面、栽培環境や管理に対する要求が比較的高く、樹の寿命も短い傾向があります。

このため、長期間にわたって安定的な商業生産を行うという面では、ファンタスティコに比べて不利になる場合があります。

ファンタスティコへの品種転換が進んだ背景には、このような栽培上の特性も関係しています。

 

果実の特徴

フェミネッロの果実は、一般に3品種の中では小型です。

果形は比較的整いやすく、果皮表面もカスタニャーロと比べると滑らかな傾向があります。

3品種を同条件で比較した研究でも、フェミネッロはカスタニャーロやファンタスティコより小さな果実を形成する傾向が確認されています。

果実が小さいということは、生果重量だけを考えれば必ずしも有利ではありません。

しかし、ベルガモットでは果実の大きさだけでなく、果皮に含まれる精油の組成や香りの質が重要であるため、「小果=価値が低い」ということにはなりません。

 

収穫時期

フェミネッロは3品種の中でも早生性が強い品種です。

カラブリアでは10月頃から結実・収穫期を迎えるとされ、ファンタスティコやカスタニャーロより早い時期から利用できます。

早い時期のベルガモットは果皮の緑色が強く、成熟が進んだ黄色い果実とは外観も香りも大きく異なります。

このため、フェミネッロの早生性は、単に「早く収穫できる」というだけでなく、シーズン初期の香りを利用する場合にも特徴となります。

 

精油と香りの特徴

フェミネッロについては、古くから「精油品質の優れた品種」と説明されることがあります。

ただし、ここで注意したいのは、

「すべての重要香気成分がファンタスティコより多い」という意味ではない

という点です。

実際にファンタスティコとフェミネッロの精油を比較したGC/MS研究では、香気成分によって品種間の大小関係が異なりました。

フェミネッロでは、

リナロール
β-オシメン
β-ミルセン
α-テルピネン

などがファンタスティコより高い濃度を示しました。

特にリナロールはフェミネッロで有意に高いことが確認されています。

一方、酢酸リナリルや酢酸ネリルなどのエステル類はファンタスティコの方が高くなっています。

つまり、

フェミネッロとファンタスティコでは「精油品質の上下」というより、「香りを構成する成分のバランスが異なる」

と考える方が適切です。

ベルガモットらしい香りは、リモネンだけで決まるものではありません。

フローラルで爽やかなリナロール、華やかで柔らかな印象を与える酢酸リナリル、それ以外の多数のモノテルペン類や微量成分が組み合わさることで、ベルガモット特有の複雑な香りが形成されます。

その組成バランスが品種によって異なることが、フェミネッロの重要な特徴です。

 

3  カスタニャーロ(Castagnaro)

強健な樹と大きな果実を持つ品種

カスタニャーロは、ファンタスティコ、フェミネッロとはかなり異なる特徴を持つベルガモットです。

一言で表すなら、

「強い樹に、大きな果実を実らせるタイプ」

です。

樹は強健で寿命も比較的長く、果実は3品種の中で最も大きくなる傾向があります。

その一方で、豊作年と不作年の差が大きくなる隔年結果が生じやすいという欠点があります。

 

樹の特徴

カスタニャーロは樹勢が強く、比較的大型の樹になります。

また、長寿で環境に対する抵抗性も比較的高い品種として知られています。

フェミネッロが「小型で繊細な品種」だとすれば、カスタニャーロはその反対側に位置するタイプです。

ただし、樹が強ければ必ず生産性が安定するわけではありません。

カスタニャーロでは、他の2品種よりも隔年結果の傾向が強いとされています。

ある年に多くの果実を実らせると、翌年の着花・着果が減少し、その後再び収量が増えるといった年次変動が生じやすいため、毎年一定量を供給する商業栽培では扱いにくい面があります。

 

果実の特徴

カスタニャーロ最大の特徴の一つが、果実の大きさです。

2019年に3品種を10月から翌年3月まで継続的に比較した研究では、カスタニャーロが全収穫期間を通じて最も大きく、重い果実を形成しました。

果実の縦径・横径も大きく、さらに果皮重量も3品種中最大でした。

この点は、ベルガモットを「精油原料」としてだけでなく、果実全体を利用する場合に非常に興味深い特徴です。

ベルガモットでは、

果汁
果皮
精油
乾燥果皮
粉末

など、果実のさまざまな部分を利用できます。

そのため、果実が大型で果皮量の多いカスタニャーロは、単純な精油品質とは別に、果皮を食品原料として利用する場合の歩留まりという観点から評価できる可能性があります。

 

果皮の特徴

カスタニャーロの果皮は、フェミネッロなどに比べると表面がやや粗く、凹凸や皺が目立つ傾向があります。

近年の品種整理でも、カスタニャーロは「大型で皺のある果実」、フェミネッロは「球形で滑らかな果実」、ファンタスティコはその中間的な特徴を持つ品種として説明されています。

外観だけを見ると、ファンタスティコやフェミネッロの方が整って見える場合がありますが、果皮そのものを加工原料として考える場合には、果皮重量の大きさは逆にメリットになります。

 

収穫時期

カスタニャーロの収穫は、カラブリアでは概ね11月頃から始まるとされています。

また、大型果となりやすいため、成熟の進行とともに果実重量が大きく増加します。

ベルガモットは非クライマクテリック型果実であり、収穫後に急速に追熟する果実ではありません。そのため、樹上でどの段階まで成熟させ、いつ収穫するかが果実品質に大きく影響します。

 

精油と香り

カスタニャーロは、伝統的にはファンタスティコやフェミネッロと比較すると、精油の香気品質という面ではやや評価が低い品種とされてきました。

そのため、ベルガモット産業が「香水用精油の効率的な生産」を重視する方向へ進む中で、生産性と精油品質のバランスに優れるファンタスティコが主流となっていきました。

一方で、カスタニャーロには、

強健な樹
大きな果実
多い果皮重量

という、他の2品種にはない明確な特徴があります。

生果利用、果汁利用、果皮加工など、ベルガモットの用途が精油以外にも広がっている現在では、こうした特徴について改めて検討する余地があります。

 

4 なぜ現在はファンタスティコが主流なのか

3品種を比較すると、なぜ現在ファンタスティコが主流になっているのかが見えてきます。

フェミネッロには香りや早生性という魅力がありますが、樹が比較的小さく繊細で、寿命も短いという弱点があります。

カスタニャーロは強健で大果ですが、隔年結果が強く、毎年の生産量を安定させにくいという問題があります。

その中間に位置するのがファンタスティコです。

樹勢があり、結実量も多く、比較的安定して収穫でき、果実も十分な大きさを持ち、さらに精油の生産性と香気品質にも優れています。

つまりファンタスティコは、

「一つの特徴が突出している」というより、商業的なベルガモット栽培に必要な性質を総合的に高い水準で備えている

ことが最大の強みです。

この総合力が、現在のカラブリアでファンタスティコが主要品種となっている大きな理由と考えられます。

 

5 品種だけではベルガモットの香りは決まらない

ベルガモットを理解するうえで、もう一つ重要なのが収穫時期です。

ベルガモットの香りは「ファンタスティコだからこの香り」「フェミネッロだからこの香り」と、品種だけで決まるものではありません。

 

ファンタスティコとフェミネッロを11月、12月、1月に比較した研究では、品種間だけでなく、同じ品種であっても収穫時期によってβ-ピネン、γ-テルピネン、セスキテルペン類など一部の揮発性成分の濃度が変化しました。

果実そのものについても同様です。

10月から翌年3月まで3品種を追跡した研究では、果実重量、果汁量、果皮量、糖度、酸度、フラボノイド組成などが成熟の進行に伴って変化することが確認されています。

つまり、ベルガモットの品質は、「品種 × 収穫時期 × 栽培環境」の組み合わせによって形成されます。

 

さらに実際の栽培では、土壌、樹齢、台木、日照、気温、水分条件、施肥なども影響すると考えられます。

そのため、ベルガモットを料理や菓子、飲料、精油などの原料として利用する場合には、単に「ベルガモット」という品目名だけで考えるのではなく、

どの品種を、どの成熟段階で収穫したものなのか

まで考えることで、より用途に適した果実を選択できる可能性があります。

7  これからのベルガモットは「品種」と「収穫時期」で使い分ける

ベルガモットは長い間、主として果皮から精油を採取するために栽培されてきました。

しかし現在では、精油だけでなく、果汁、果皮、乾燥果皮、粉末、菓子、料理、飲料など、果実全体を利用する動きが広がっています。ベルガモット果汁や果皮の食品利用についても研究が進んでいます。

そうなると、従来の「香水用精油としてどの品種が優れているか」という評価だけでは十分ではありません。

 

例えば、

早い時期から収穫できることを重視するのか。

果皮の香りを重視するのか。

果汁量を重視するのか。

加工用として果皮量を重視するのか。

特定の香気成分を重視するのか。

収量の安定性を重視するのか。

 

目的によって、評価すべき品種特性は変わります。

ベルガモットの3品種は、単純に「一番良い品種、二番目、三番目」という関係ではありません。

ファンタスティコにはファンタスティコの良さがあり、フェミネッロにはフェミネッロならではの香りがあり、カスタニャーロには大果・多果皮という特徴があります。そして同じ品種でも、緑色の若い果実から成熟した黄色い果実へと変化する過程で、香りや味、果汁、果皮の性質は変化していきます。

ベルガモットという果実をより深く理解するためには、「品種の違い」と「成熟・収穫時期の違い」の両方を見ることが重要です。

3品種の特徴を大まかに整理すると、次のようになります。

特徴ファンタスティコフェミネッロカスタニャーロ
現在の位置づけ主力品種伝統的・早生型強健・大果型
普及度非常に高い少ない少ない
樹勢中~強やや弱い強い
樹の大きさ中程度比較的小さい大きい
樹の寿命比較的安定やや短い長い
生産性高く安定比較的安定するが管理要求が高い多収だが隔年結果しやすい
主な収穫開始時期11月頃10月頃11月頃
果実サイズ中程度小さめ大きい
果皮標準的比較的滑らか粗く、皺・凹凸が出やすい
果皮重量中程度比較的少ない多い
精油の特徴量・品質のバランスが良い香気組成に特徴伝統的な香気評価ではやや劣る
特徴的な香気傾向酢酸リナリルなどエステル類が比較的多いリナロールなどが比較的多い品種固有の香気組成を持つ
栽培上の特徴総合力が高い早生だが繊細強健だが隔年結果に注意

※品種特性は栽培地域、樹齢、台木、気象条件、収穫時期などによって変化します。また香気成分については、特定の栽培条件下での比較研究による傾向であり、すべての果実に同じ数値が当てはまるものではありません。