ベルガモットの特徴
ベルガモットの 生物学学的特徴について
ベルガモット(一般に Citrus × bergamia )は、ミカン科ミカン属に属する常緑性の柑橘です。レモンやオレンジと同じミカン属の植物ですが、果実をそのまま食べることよりも、果皮に含まれる非常に特徴的な芳香成分を利用する目的で発達してきた、やや特殊な柑橘といえます。
果皮には多数の油胞があり、そこから得られるベルガモット精油は香水をはじめ、アールグレイ紅茶の香り付け、菓子、飲料など幅広い用途に利用されています。一方、植物として見ると、葉、花、果皮、果汁のそれぞれにベルガモットらしい特徴があります。
1 分類と交雑起源
分類
ベルガモットはミカン科(Rutaceae)ミカン属(Citrus)に属する常緑性の小高木です。
一般には学名として Citrus × bergamia (Risso) Risso & Poit. が広く用いられています。「×」は交雑に由来する植物であることを示しています。
ただし、柑橘類は古くから自然交雑や人為的な交雑を繰り返してきたため、その分類は非常に複雑です。ベルガモットについても分類上の扱いは必ずしも統一されておらず、現在のKew Gardens「Plants of the World Online」では、Citrus × bergamia を独立した種としてではなく、Citrus × limon のシノニム(異名)として扱っています。
そのため、文献によって Citrus bergamia、Citrus × bergamia、あるいはサワーオレンジに近い分類名など、異なる学名が使われていることがあります。
交雑起源
ベルガモットがどの柑橘から生じたのかについても、現在まで完全には確定していません。
有力な説としては、
サワーオレンジ(Citrus × aurantium)とレモン(Citrus × limon)
サワーオレンジとライム類
サワーオレンジとシトロン(Citrus medica)
などの交雑に由来するという説があります。
つまりベルガモットは、単純に「○○と○○を交配して作られた品種」と断定できる植物ではなく、複数の柑橘類が複雑に交雑して成立してきたミカン属の中で生まれた柑橘と考える方が適切です。
実際、樹や葉にはサワーオレンジやレモンを思わせる特徴があり、果実にはレモンに近い強い酸味を持つ一方、果皮の香気にはベルガモット特有の性質が現れます。
2 樹形・枝の特徴
ベルガモットは常緑性の低木から小高木で、成木になると一般に高さ3~5m程度になります。ただし、実際の樹高や樹冠の大きさは、品種、台木、土壌、気候、剪定方法、栽培年数などによって大きく変化します。
放任すると枝を伸ばして樹冠を形成しますが、果実生産を目的とする栽培では、収穫や防除、日照条件などを考慮して樹高を抑えて管理されるのが一般的です。
若い枝は緑色を呈し、生長するにつれて木質化して褐色から灰褐色になります。
ミカン属の植物に共通する特徴として、枝の葉腋付近に棘を生じることがあります。ベルガモットでも、特に勢いよく伸びた若い枝や徒長枝などに棘が現れる場合があります。棘の大きさや発生程度には樹齢や系統、枝の生育状態による差があります。
3 葉の形態
ベルガモットの葉は常緑で、枝に互生します。
葉身は卵形、卵状長楕円形から楕円形で、比較的厚みがあり、表面には光沢があります。葉色は成熟すると濃緑色となり、レモンなど他の柑橘と比較しても存在感のある葉を形成します。
葉の先端はやや尖り、葉縁にはごく浅い鋸歯が見られることがあります。
葉柄と翼葉
ベルガモットの葉を観察する際の特徴の一つが、葉身と枝をつなぐ「葉柄」です。
ミカン属では葉柄の左右に翼状の組織が形成される種類があり、これを「翼葉」あるいは「翼葉柄」と呼びます。
ベルガモットにも翼のある葉柄が見られます。この形質はサワーオレンジなどにも認められる特徴で、ベルガモットの形態的な由来を考えるうえでも興味深い部分です。
ただし、翼の幅や形状には品種や個体差があるため、「必ず明瞭なハート型になる」とまで限定せず、葉柄に翼を持つことがあると理解する方が適切です。
葉の油胞
ベルガモットの葉には、肉眼でも細かな点として確認できる多数の油胞(精油腺)が存在します。
これはベルガモットだけの特徴ではなくミカン属全般に共通する性質で、葉を光に透かして観察すると、細かな半透明の点として油胞を確認することができます。
葉を揉んだり傷つけたりすると油胞が壊れ、内部に蓄積されている揮発性成分が放出されるため、ベルガモット特有の柑橘香が立ち上がります。
ベルガモットというと果皮の香りが有名ですが、香気成分を蓄積する組織は果皮だけではなく、葉にも存在しています。
4 花の形態
ベルガモットの花は、柑橘類に典型的な白色の花を咲かせます。
花は基本的に5枚の花弁を持ち、開花すると星形に見えます。花の大きさはおおむね数cm程度で、葉腋に単独で着生するほか、複数の花がまとまって形成されることもあります。
花の中心部には多数の雄しべがあり、その中央に雌しべがあります。
開花時期
主要産地であるイタリア南部では春季に開花します。日本国内で栽培した場合も基本的には春を中心に開花しますが、具体的な時期は地域、施設・露地の違い、温度条件、樹の生育状態などによって変化します。
柑橘類では前年から春先までの気温や樹体の栄養状態なども花芽形成や開花に影響するため、暦上の開花月だけではなく、その年の気象条件によって前後します。
花の香り
ベルガモットの花には強い芳香があります。
柑橘の花らしい甘く華やかな香りを持ち、果皮の爽やかでシャープなベルガモット香とは異なる印象を与えます。
サワーオレンジの花から得られる精油は「ネロリ」として有名ですが、ベルガモットの花も同じミカン属らしい白花特有の芳香を持っています。
5 果実の形態
ベルガモットの果実は植物学上、ミカン属に特徴的な「柑果(hesperidium)」に分類されます。
果実の形は球形からやや扁球形、さらに洋梨形に近いものまで幅があり、品種や個体によって外観に差があります。
ベルガモットという名称の語源についても諸説ありますが、トルコ語で「君主の梨」を意味するとされる言葉との関係が指摘されるほど、洋梨に似た果形を示す果実があります。
果実重量についてはおおむね80~200g程度とする文献があり、一般的なレモンと同程度から、それよりやや大きな果実になることがあります。
果頂部には小さな突起や凹み、環状の形態が現れる場合があります。ただし、すべてのベルガモット果実が同じ形になるわけではなく、品種、生育条件、着果位置などによって形状にはかなりの幅があります。
6 果皮の構造
ベルガモットを特徴づける最も重要な器官の一つが果皮です。
柑橘の果皮は大きく、外側の色の付いた「フラベド」と、その内側にある白色の「アルベド」に分けることができます。
外果皮(フラベド)
フラベドは果実表面を構成する緑色から黄色の部分です。
未熟なベルガモットではクロロフィルを多く含むため濃い緑色を呈します。その後、果実の成熟と気温の低下などに伴ってクロロフィルが減少し、黄色へと変化していきます。
そのため、ベルガモットは成熟過程において、濃緑色 → 緑黄色 → 黄色と外観が大きく変化します。
ベルガモットの果皮で特に重要なのが、フラベド内部に多数存在する「油胞」です。
果実を横から見ると、果皮表面に細かな凹凸が確認できます。その内部には精油を蓄積する油胞が存在し、果皮を曲げたり圧迫したりすると精油が細かな霧状になって飛び出すことがあります。
この油胞に蓄えられた精油こそが、香水、食品香料、アールグレイなどに利用されるベルガモット精油の原料です。ベルガモット精油は伝統的には果皮から機械的に搾油・抽出されてきました。
中果皮(アルベド)
フラベドの内側には白色で海綿状の組織である「アルベド」があります。
アルベドは果肉と外果皮の間に位置し、果実を物理的に保護する役割を持っています。
ベルガモットではアルベドにも一定の厚みがあります。フラベドのように強い芳香を目的として利用される部分ではありませんが、果実を加工する際には苦味などにも関係するため、果皮全体を使用するのか、外側のフラベドを中心に使用するのかによって加工品の風味が変化します。
7 果肉・じょうのう・砂じょう
果皮の内側にある可食部は、複数の「じょうのう(房)」に分かれています。
一般的な柑橘類と同じように、それぞれの房の内部には果汁を蓄えた多数の「砂じょう」が存在します。この砂じょうを搾ることでベルガモット果汁が得られます。
ベルガモットの果汁は淡黄色から緑黄色を呈し、非常に強い酸味を持っています。
酸味の中心となるのはクエン酸などの有機酸です。
一方で、ベルガモット果汁の味を特徴づけているのは酸味だけではありません。ナリンギン、ネオヘスペリジン、ネオエリオシトリンなどのフラボノイド類を含み、独特の苦味を伴います。
そのため、一般的なオレンジやミカンのように果実をそのまま食べる用途には向きません。
しかし、この「強い酸味+苦味+芳香」という組み合わせは、飲料、カクテル、菓子、ソース、調味料などに利用すると、レモンとは異なる複雑な風味を与える特徴にもなります
8 種子
ベルガモットの種子は一般的な柑橘類と同様に、白色から淡黄白色で、卵形からやや尖った形状をしています。
種子数は一定ではなく、品種や系統、果実ごとの差が大きく、種子を比較的多く含む果実もあれば、ほとんど種子を含まない果実もあります。
また柑橘類では、受粉・受精の条件によって種子数が変化することがあるため、同じ樹から収穫した果実でも必ず同じ数の種子が入るとは限りません。
ベルガモットを果実利用する場合には種子の多少はそれほど大きな問題にはなりませんが、果汁加工や果皮加工では、搾汁・粉砕方法によって種子由来の成分が混入しないよう注意する必要があります。
9 ベルガモットの形態を特徴づける「香り」
ベルガモットを他の柑橘と区別する最大の特徴は、やはり香りです。
ただし、その香りは果実全体から均一に発生しているわけではありません。
特に香気成分が集中しているのが、果皮のフラベドに存在する油胞です。
ベルガモット果皮の精油には多数の揮発性成分が含まれますが、その中でも主要成分として知られているのが、
リモネン
酢酸リナリル(linalyl acetate)
リナロール(linalool)
などです。
リモネンは柑橘らしい明るく爽やかな香り、酢酸リナリルは甘く柔らかいフローラル・フルーティーな香り、リナロールは花を思わせる華やかな香りに関係します。
ベルガモットでは、一般的なレモンやオレンジとは異なる割合でこれらの成分が組み合わさることで、「柑橘らしい爽快感」と「花のような華やかさ」を併せ持つ独特の香りが形成されています。
この香気特性こそが、ベルガモットが単なる酸味の強い柑橘ではなく、香料原料として世界的に重要な地位を築いてきた最大の理由です。
10 ベルガモット果汁における苦みについて
イタリアの文献では(メイン産地のカラブリア州モノ)におけるベルガモット(Citrus bergamia)の果汁および果皮に含まれる苦み成分の研究では、主に5つの成分が特定されています。
ベルガモットは一般的なレモンやライムとは異なり、「フラボノイド配糖体」と「リモノイド」の両方が高濃度で共存する点が最大の特徴です。
ベルガモットの主要苦み成分(5大成分)
1. フラボノイド配糖体(水溶性・苦みの主因)
ベルガモットの果汁中において最も含有量が多く、苦みや独特のエグ味(および機能性)の骨格を作っている成分。果汁を口に含んだ瞬間に感じる「直撃する強い苦み」の正体であり果汁100mlあたり数百mg単位と高い濃度で溶け込んでいます。
ネオエリオシトリン(Neoeriocitrin) ベルガモットにおいて特徴的
特徴: ベルガモット果汁中で最も存在量が多い(100~400 mg/L 程度)苦みポリフェノールです。レモン等にはほとんど含まれないため、ベルガモット果汁の「強い苦みと機能性(Statine様作用)」の最大の核となります。
他の柑橘にはほとんど含まれないため、海外文献では「ベルガモットの果汁鑑別マーカー」として使われます。
ナリンギン(Naringin)
特徴: グレープフルーツの主苦み成分として有名ですが、ベルガモットにも高濃度(100?400 mg/L)で含まれます。舌に残るシャープで強い苦みが特徴です。
ネオヘスペリジン(Neohesperidin)
特徴: ダイダイ(サワーオレンジ)の主要苦み成分。ベルガモット果汁にも上位に含まれ(50~300 mg/L)、ネオエリオシトリンやナリンギンと合わさって重厚で複雑な苦みを生み出します。
2. リモノイド類(後苦みの原因になりえる)
成分量は比較的少ないが、苦みを感じる最低濃度が低い為、果汁を絞った後や加熱後にジワジワ出てくる苦みの原因となります。
リモニン(Limonin)(20~65 mg/L 程度)
ノミリン(Nomilin)(15~67 mg/L 程度)
レモンやライムとの比較
レモン・ライム: 苦みの大部分は「リモニン・ノミリン(リモノイド)」が中心。
ベルガモット果汁において ネオエリオシトリン + ナリンギン + ネオヘスペリジン(フラボノイド3種)が圧倒的な量を占め、そこにリモニン類が加わるため、柑橘類の中でも非常に複雑で強い苦み構造を持っています。
またこの3種は、レモン果汁には practically absent(実質的に存在しない)ため、ベルガモット果汁がレモン果汁に混入しているかをHPLCで判別するマーカーとして使えます。
■収穫時期による「果汁内」の変化傾向(文献ベース)
時期別の苦み変化を分析する場合、果汁中では以下の現象が起きることが知られています。
・未熟期(秋口~初冬)
ネオエリオシトリン・ナリンギンが非常に高濃度。
ノミリンの割合が高く、非常に角のある強烈な苦み。
・成熟期(冬~春先)
果実の肥大・熟度向上に伴い、果汁全体のポリフェノール濃度(フラボノイド類)が低下。
ノミリンが減少し、リモニンへ推移。苦みの強度が全体的に和らぎマイルドになる。
11 形態から見たベルガモットの特徴
ベルガモットは、一見するとレモンやオレンジに近い一般的な柑橘に見えます。
しかし植物を細かく観察すると、
葉には香気を蓄積する油胞があり、
花には柑橘特有の強い芳香があり、
果皮には非常に多くの精油が蓄積され、
果汁には強い酸味と特徴的な苦味がある、
というように、植物体のさまざまな部分に特徴が現れています。
とりわけ果皮の油胞と、そこに蓄積される独特な精油組成はベルガモットを特徴づける重要な性質です。
一般的な柑橘が「果肉を食べる果物」として発達してきたのに対し、ベルガモットは歴史的に「果皮の香りを利用する柑橘」として価値を見いだされてきました。
この植物学的な特徴が、後の香水産業、アールグレイ紅茶、食品香料、菓子、飲料などへの利用につながっています。
12 ベルガモットの主な栽培品種
ベルガモットの主な栽培品種は、現在主に以下の3種類に大別されます。
ファンタスティコ (Fantastico)
特徴: 現在の主要産地(イタリア・カラブリア州など)における栽培面積の約7?8割を占める主力品種。
樹形・果実: 樹勢が強く、収量が安定している。果実は中規模の大きさ。
精油・用途: 収量と精油品質のバランスが非常に良く、現代のベルガモット栽培における標準的な品種。
フェミネッロ (Femminello)
特徴: 歴史が古く、精油の品質が最も高いとされる品種。
樹形・果実: 樹勢は弱く、コンパクトな樹形。果実はやや小さく、果皮の表面は比較的滑らか。早生性。
精油・用途: 酢酸リナリル等の優れた芳香成分を豊富に含むが、樹の寿命が短く、栽培管理にはやや手間がかかる。
カスタニャーロ (Castagnaro)
特徴: 果実が大きく、強健な品種。
樹形・果実: 樹勢が非常に強く、大木になりやすい。果皮にはゴツゴツとした粗い凹凸がある。隔年結果(豊作と不作を交互に繰り返す現象)が起きやすい。
精油・用途: 果実の収量自体は多いが、精油の品質はフェミネッロやファンタスティコに比べてやや劣るとされる。
※品種の詳細についてはこちらご覧ください。
